中学受験のプロ peterの日記

中学受験について、プロの視点であれこれ語ります。

中学受験で成功する親、失敗する親の違いはどこにある?

私は夫婦関係のスペシャリストでもなんでもありません。したがって偉そうに何かを語ることなどできないのですが、中学受験を通して様々なご相談も受けてきました。

そこで今回は、中学入試に有利か不利か、その観点だけからケーススタディとして夫婦関係について考えてみたいと思います。

※個人情報保護の観点から、当事者が読んでも自分のこととわからぬレベルまで設定を変えていますが、実話です。

 

離婚の相談にきた母親

あるとき、指導していた女子生徒の母親が、相談にきたのです。

いつものように学習相談か進路相談かと思ってお話をうかがうと、離婚相談でした。

私をそこまで信頼してくださった、というよりは、他に相談相手がいない、ということのようでしたね。

実家の両親に相談すれば、「そんなもの今すぐ別れなさい!」となるか、「我慢しなさい!」となるか、どちらかでしょう。ご両親が保守的かどうかで対応は変わりそうです。今の時代なら前者が多そうです。

また、さすがに友人にも相談しづらい。学生時代からの友人達も、子育て真っ最中で、中学受験チャレンジ組ばかりです。他人(友人だとしても)の家庭の事情にアドバイスする余裕がありません。

そこで、私のところに相談にきたのです。

◆現在、家庭内別居状態

◆子どもは一人、女子小5

◆金銭的不安は考えなくてもいい(実家が支援してくれそう)

状況を整理するとこのような形でした。

離婚をしなくてはならない理由については省きます。そこが本題ではありませんので。

ご相談内容は、ずばりこれでした。

「離婚は中学入試に不利にならないか?」

つまり、もし離婚したことで子どもの中学入試に不利になるのなら、子どもの受験が終わるまでは我慢する(粘る)。しかし、もし不利にならないのなら、今すぐ離婚したい。そういうことだったのです。離婚後の子どもは自分が育てるということでした。

 

これは困りましたね。

シングルマザーが受験に不利かどうかについては、確実にお話できることがないのです。

もちろん、どの学校も「問題ありません」と言っています。

しかし、学校が「問題ありません」といっているから大丈夫だ! と考えるには、私はあまりに長くこの業界に居過ぎました。

「うちもシングルマザーだったけど合格しました!」

「中学校に進学したら、シングルマザーもけっこういましたよ!」

こんな声があるのも知っています。実際にそうした子もたくさんいました。しかし、これは「そういう人がいた」という例にすぎず、これを一般化して「だから問題ない」ということはできません。

「うちは勉強しなかったけど開成に合格しました!」

桜蔭に進学したら、勉強しない子もけっこういましたよ!」

と聞いて、「開成や桜蔭は、勉強しなくても合格できる」とはならないのと同じです。

 

学校側の立場から考えてみます。

私立中高は、教育理念を実践する場です。その理念は様々です。また、「私立」です。そこで、このようなことが推測できます。

 

①教育理念を理解し共感してくれる生徒・家庭に入ってきてもらいたい

②学費がきちんと支払える家庭でないと困る

③学校の指示に従ってくれる家庭・子どもに入ってもらいたい

④成績が優秀な生徒に来てほしい

⑤周囲の環境に合わせられない生徒は困る

⑥子どもにきちんとした躾をしてくれている家庭でないと困る

⑦問題が起こったときに、対応できる家庭でないと困る

 

別に特別なことは何一つないですね。言葉にするかどうかはともかく、学校の本音はこのようなものなのは当たり前です。

 

さて、シングルマザーであることはどのような項目に影響するでしょうか。

 

①教育理念・・・学校によっては、保守的な家庭像を前提とした教育を行うところもあります。父親と母親が揃っていることが前提なのです。

例えば慶應中等部の二次試験の保護者同伴面接についてHPのQ&Aにはこうあります。

「できるかぎりご両親でご出席下さい。 やむを得ない場合には、 お一人でも結構です。」

あくまでも両親揃っていることが前提で、母親一人というのは「やむを得ない」場合という認識なのですね。

もちろん、そのことが入試に不利になるのかどうかは不明です。

私の指導した生徒でも母親だけが面接に行き合格した子は複数います。しかしそのことが何の証明にもならないのは前述したとおりです。

 

②経済状況・・・学校も私立である以上、授業料で成り立っています。6年間きちんと(無理せず)学費を納めてもらわないと経営が成り立ちません。

残念ながら、日本の社会はまだまだ男性優位です。シングルマザーでは、大丈夫なのか? こう不安に思われる可能性は否定できません。

 

③家庭環境・・・ 日本では離婚はまだまだ特殊な状況扱いです。それでも徐々に増えてきていて、べつに珍しくはないような気もします。ただ、先進国の中では離婚率は低いのは周知の事実です。

(実は離婚率の計算方法はかなりあいまいです。結婚した夫婦を分母とした数値ではなく、人口1000人あたりの離婚者の人数を離婚率として計算しています。日本は1.69です)

離婚した=家庭環境が複雑? そうした疑念を持たれることには覚悟する必要があるかもしれません。

 

⑥家庭の躾・・・思春期の子どもに親がどれだけ向き合う時間をとれるのか。ここは重要です。シングルマザー=母親が忙しい=子どもは放置? と短絡思考される可能性はあるでしょう。

知人の男の子を持つシングルマザーの方は、離婚して父親がいないことの責任を痛感し、自身が仕事で忙しいこともあって、徹底的に子どもを甘やかして育てました。母親が息子を甘やかすのは珍しくないですが、度が過ぎたのですね。そのため、子どもはよく言えば自由人、悪く言えば我儘放題の子に育ってしまいましたね。せっかく進学した私立中学もさぼるため勉強についていけず、高校に上がれませんでした。もちろんただの特殊例にすぎません。

 

⑦問題がおこったときの対応・・・学校だけでは解決不能で、家庭と力を合わせて対処しなくてはならない問題というものがあります。イジメや暴力事件や窃盗事件やその他、子ども本人が主因の場合も、巻き込まれ事故の場合も、いろいろあるかもしれません。その際の対応が、母親一人ではたしてできるのか? そう心配される可能性はあるでしょう。

 

ここまで書いてきたのは、

「私立中高はそう考える」

ということではなく、

「そう考える可能性があることを否定する根拠を得ることはできない」

ということです。

 

さて、相談を受けた私がしたアドバイスは次のようなものでした。

◆子どもの受験と離婚問題を切り離して考える

学校によってはシングルマザーが不利になる可能性はあるかもしれないが、そんな学校は最初から「行く価値の無い」学校だと考えよう。離婚問題を受験を切り離して考えたとき、今離婚したいならすればいい、ただそれだけの話である。

◆受験勉強で父親の役割も覚悟すること

一般的には、「厳しい父親&甘やかす母親」「甘い父親&厳しい母親」「理性的な父親&感情的な母親」「最後に頼りになる父親&ちょっと頼りない母親」といった組み合わせで子どもの受験に並走する。

しかし父親がいない以上、母親が両方の役割をうまく使い分ける必要がある。

◆子どもを大人扱いすること

離婚問題は夫婦の問題ではあるが、子どもが確実に巻き込まれている。それならば、離婚にいたった経緯と決断の理由、そして今後の見通し等について、子どもを大人扱いしてきちんと話さなければいけない。そこをきちんとしないと、子どもが一方的な被害者意識を持ちかねない。

◆結局のところ、母親の幸せ=子どもの幸せ

母親が子どものために犠牲になっていることは子どもにとって嬉しい事態ではない。母親が笑顔でいられる環境を作ることが結局は一番大切なはず。

 

シングルマザーが受験に不利になるのか、という質問には正面から答えられず、このようなアドバイスとなりました。

もちろん、保守的な価値観の学校、両親そろっての面接がある学校、こうした学校は候補から外す指導はしています。

そして最後に最大のアドバイスをしました。

★得点さえ高ければ問題なし!

それはそうですね。入試で最高得点をたたき出せばいいのです。そんな優秀な生徒を見逃す学校はありません。一番シンプルで有効な作戦です。

 

両親がのめり込んでしまった

 

私がこの仕事を始めたころには、塾の保護者会や面談には母親しか来ませんでした。相談のお電話も100%母親からです。もちろん全員がシングルマザーということではありません。

子どもが小学生ということは、父親は30代後半から40代前半といった年代が大半でしょう。つまり、まさに「働き盛り」で、一番仕事が忙しい時期にあたるのです。毎日子供の勉強に向き合ったり塾に来たりするのは母親の役割だったのですね。

 

時代は変わりました。

 

母親も仕事で忙しくなってきたのです。

それと呼応するように、父親が積極的に子どもの中学受験に関わるケースが増えてきました。

そのこと自体は歓迎すべき事態です。

私が問題視しているのは、両親がともに受験にのめり込んでしまうことなのです。

 

塾では子どもはほめられることは非常に少ないですね。どうしても注意・指導を受けるケースがほとんどです。きちんと漢字で書きなさい、計算間違えしてはいけない、どうして復習してこないのか、等々指導されています。

そして家庭では、母親から、「早く勉強にとりかかりなさい!」「どうしてこんな問題間違えたの!」「集中しなさい!」等々、叱られる場面が多いのです。

そこに父親まで参戦したらどうなるでしょう?

子どもの精神的な逃げ場がなくなります。

「まあまあ、花子だって疲れてるんだから、今日はもう勉強はやめにして早く寝なさい」

「太郎だって頑張ってるぞ。先月よりも出来るようになったじゃないか」

といった具合に、時には母親を諫め、時には子どもを認めてくれる。そうした存在は必要です。

 

両親そろって受験にのめり込むことは、弊害もまた大きいことを理解してほしいのです。