今回は、我々塾の教師が使っているテクニックをご紹介します。
質問で教室をコントロールするやり方についてです。
これはご家庭でも非常に有効なテクニックですので、きっと参考になると思います。
- (1)生徒の知識を確認する目的
- (2)考えさせる目的の質問
- (3)覚えさせる目的の質問
- (4)集中させる目的の質問
- (5)注意する目的の質問
- (6)ほめる目的の質問
- (7)教える目的の質問
- (8)授業の中に引き込む目的の質問
- (9)授業に参加させる目的の質問
教師は多様な質問を生徒にしますが、実は質問にはそのやり方・効果に多くの種類があるのです。ここでは代表的な9種類をご紹介します。
(1)生徒の知識を確認する目的
私:みんなは「ノーマライゼーション」という言葉を知っているかな?
生徒1:ええと、何だっけ? 何か聞いたことがあるような気がするんだけど。
生徒2:ほら、なんだかバリアフリー習ったときに出てきたような気がする
生徒3:違うよ。インフレーションとかデフレーションの仲間じゃなかった?
この質問は、シンプルに生徒が「ノーマライゼーション」について知っているのかどうかを確認する目的の質問です。
もし全員がよく知っていれば、もうここで教える必要はないわけですし、知っている生徒がどれくらいいるのかによって、説明の仕方や時間が変わります。
例とした会話では、どうやら生徒達はわかっていないようですね。そこできちんと最初から教える必要があることが把握できました。
(2)考えさせる目的の質問
私:みんなは日本の高齢化の割合がどれくらいか覚えているかな?
生徒:30%くらい!
私:よく覚えていたね。65歳以上の割合が7%になった社会を高齢化社会という。そして14%になると高齢社会、21%を超えると超高齢社会と呼んだんだね。
生徒:じゃあ、28%を超えたら超超高齢社会?
私:もう呼び名は無い。日本が高齢化社会に到達したのは1970年だった。1994年には高齢社会に、そして2007年に超高齢社会になったんだね。
生徒:ええと、7%から14%になるのに24年かかって、14%から21%になるのに13年かかったんだね。それって加速してる!?
私:28%になったのは2018年だった。
生徒:ほら、やっぱり加速してるよ!
私:では、どうして高齢化が加速しているのか、だれかわかるかな?
少子高齢化の問題は、まともに取り組むと、何十時間あっても足りないテーマです。生徒に事実の重みをぶつけたところで、高齢化の原因や対応について考えさせる展開とします。
これは「考えさせる目的」の質問になります。
(3)覚えさせる目的の質問
例えば黒板に憲法9条の条文を書きます。そこで生徒全員に丸暗記する時間を与えます。
私:はい、それじゃあこの単語を消すよ。Aさん、消された単語を自分で入れて読み上げてごらん。
生徒:「日本国民は・・・・・」
私:よくできたね。それじゃあ次はこの語句とこの語句も消そう。Bさん、読めるかな?
生徒:「日本国民は・・・・・・」
私:すごい!それじゃあ今度はこの単語とこの単語を消して・・・・。
(以下省略)
こうしてついに黒板の憲法9条は穴だらけとなりました。
「 は、 と を とする を に し、 と のために・・・」
こんな具合です。
こういう授業は盛り上がります。
授業中に憲法9条を全員が丸暗記できました。
(4)集中させる目的の質問
私:はい、Aさん、今私がしゃべった言葉をもう一度言って。
A:・・・
私:聞いてなかったんだね。それじゃあBさんは?
B:地方自治は民主主義の学校だ、です。
私:よく覚えてたね。はい、Aさん、言ってみて?
A:地方自治は民主主義の、あれ?何だっけ?
B:学校だよ
A:そうそう、民主主義の学校
私:誰の言葉だった?
A:・・・
B:ブライスです
私:はい、Aさん、もう一度言って。
実はAさんはぼんやりしていたのですね。そこで、あえてAさんに質問しました。もちろん答えられないことはわかっています。そこで、他の生徒に言わせて、Aさん自身に授業をきちんと聞いていないとまずいことを自覚させたうえで、さらにしつこくAさんに答えさせるのです。
これは、「集中させる目的」の質問でした。
(5)注意する目的の質問
Aさんがさっきから授業を聞いていません。筆箱の中を除いたり、ボールペンを分解したり、完全に授業から心が離れてしまっています。
私:はい、Aさん、答えて!
A:すいません、聞いていませんでした。
私:第一次石油危機の原因となったできごとを聞いたんだよ。
A:ええと。わかりません。
私:つい2分前に私が話したばかりじゃないか。ちゃんと授業を聞いてないとね。せっかく目標をもって授業に来ているのだから、集中しなさい。
A:すいません。
私:それじゃあBさん、答えて。
B:第四次中東戦争です。
私:どことどこが戦った?
私:その通り!
これはAさんに注意する目的の質問でした。
Aさんが授業を聞いていないことは把握していますので、質問に答えられないことももちろんわかっています。それでもあえて質問の形をとることで、Aさんに授業に集中して臨むように注意したかったのです。
さらに、Bさんに答えさせることで、ちゃんと授業を聞いていたBさんとの差を見せつけることもしています。
もちろん、こんな回りくどいことをしなくても、Aさんに「授業に集中しなさい!」と直接注意することも可能です。しかし、それでは一方的に注意されたという嫌な印象しかAさんに残りません。 授業を聞いていなかったから答えられなかった自分、という自覚を促す方が注意が有効に働くのです。
(6)ほめる目的の質問
私:さてそれでは、第二次石油危機の原因となったできごとは何だったかな。はい、Aさん。
A:イラン革命です。
私:すばらしい! よく覚えていたね!
授業の前半で、Aさんは集中していなかったことを注意されています。もちろん自分がいけないのです。とはいえ、やはり気分は落ち込みます。そうした気持ちのまま家に帰れば、今日の復習をやる気がわかないですよね。
そこで、その日の授業中に、Aさんが確実に答えられる質問をして、大げさに褒めてあげるのです。
これは「褒める目的の質問」です。
子どもですから、叱るよりも褒めるほうが伸びるのです。
(7)教える目的の質問
私:みんなは、人口が増加している都道府県はどこか知っているかな?
生徒:東京
私:正解! 第1位だ。
生徒:大阪
私:大阪は7位だね。
生徒:愛知
私:愛知は8位だ。ほら、もっと他にあるだろ、いかにも人口が増えそうな県が。
生徒:あ、神奈川県!
私:いいね。神奈川は3位だ。
(中略)
私:さて、10位までを言ってもらったけれど、何と2位が抜けたままだぞ。
生徒:島根県
私:本気でそう考えたのかな?
生徒:だって、もう思いつかないから。
私:沖縄県だ
生徒:ええ!
これは、「教える目的の質問」です。
別に質問の形をとる必要はなかったのです。
最初から黒板に人口増加率の高い都道府県を10個書けば早いですね。
でも、それでは子どもたちの頭には残りません。
そこで質問の形をとるのです。
そうすることで、「どこの都道府県だったかな?」と子どもたちは考えます。思い出そうと努力します。その後で知識を教えるのです。
こうすることで、生徒の頭にこの知識が定着しやすくなります。
さらにこの後、なぜ沖縄県なのか、その理由を考えさせる質問につなげます。
(8)授業の中に引き込む目的の質問
私:さあ、今日から江戸時代の授業に入るよ。
生徒:やった!
私:ところで、江戸時代はいったい何年くらい続いたかわかるかな? 知らないよね。選択肢を上げるから、当て勘でいいので手を上げてみて。50年以下だと思う人? 50年から100年だと思う人。・・・・・・。正解は、260年以上だ。
生徒:ええっ! 長っ!
私:ところで、今って平和だよね。
生徒:もちろん!
私:最後の戦争が終わってからどれくらいたったかな?
生徒:ええと。80年くらい?
私:そうだな。この平和って、あと何年続くだろう?
生徒:ううん。50年? 100年は無理そうだし。
私:江戸時代は、260年以上にわたって、大きな戦争もなく平和な時代が続いたんだね。今の日本が、、これから180年間平和でいられるかな?
生徒:無理だよ!
私:ということは、江戸時代ってすごくないか? よし、それじゃあこれからの授業で、なぜ江戸幕府はそんなに長続きしたのか、その秘密を探っていこう。
これが「授業に引き込む目的の質問」です。
落語でいうところの「枕」のようなものですね。
単に「江戸幕府の成立は1603年に徳川家康が・・・・」とやるよりも、このような質疑応答を少ししてから授業に入ったほうが、子どもたちの目の輝きは全然異なります。
(9)授業に参加させる目的の質問
全ての質問が、生徒を授業に参加させる目的といえます。しかし、中には手をあげられない生徒がいるのですね。
◆答えがわからない
◆質問がわからない
◆シャイ
◆面倒くさい
様々な理由です。
しかしせっかく授業に来ているのですから、少しでも授業に参加した気分にさせたいと思うのです。
そこで、選択肢をこちらで用意した質問をします。
全員が手を上げます。
少なくとも、「手を上げる」という行動をとることで、授業に参加した気分になります。
そこで、すかさず「どうしてそこで手をあげたのかな? 間違っててもいいので言ってみて」と畳みかけるといいですね。
ここでご紹介したテクニックは、教師ならだれもが意識的に&無意識に、使いこなしているものにすぎません。
ベテランの教師ともなれば、生徒の反応をみながら、自在に多彩な質問を繰り出して生徒の頭を刺激していきます。
私が、「授業はライブだ」といっている理由がそこにあります。