語彙力を向上させ国語力を上げる。
辞書引き学習法から文章朗読までさまざまな方法があります。
みな効果的です。
今回私がお勧めするのは、語彙を定着させるのに非常に効果の高いやりかた、名付けて「短文作成法」です。
名づけるほどのものではないですが。
1.読書と辞書引き学習について
語彙を増やす王道といえば読書と辞書引き学習法ですね。
この二つは平行して行われることが多いです。
本を読んで、わからない語句は辞書で調べる。
辞書が倍の厚さにふくれあがるほど付箋が貼られているものなどインパクトのある光景を見たことがあるかもしれません。
ただし、この辞書引き学習法が若干曲者なのです。
辞書を引いて付箋を貼っただけで満足してしまう可能性が高いのです。
2.言葉は使わないかぎり定着しない
わかりやすい例をあげましょう。
例えば、「モチベーション」という語句があります。
もちろん英語のmotivationです。
辞書によれば、「動機・刺激・やる気」が訳語としてあげられていました。
He lacks the motivation to work.( 彼には働く気がない.)
What makes life dreary is the want of motivation.(人生を退屈にするのは動機の欠如だ)
こんな例文があげられていました。
日本語には立派な「動機」「やる気」という語句があるのですから、ここであえて英語をカタカナ語化して取り入れる必要などないのですが、日本人はカタカナ語化するのが好きですからね。
どうやら1990年代あたりから「モチベーション」というカタカナ語として使われるようになったようです。
さて、ある小学生がこの「モチベーション」という語句を初めて知ったとします。
「へえ。大人がよく使っている『モチベーション』って動機って意味なのか」
こう思っただけでは、この語句は使いこなせる段階になりません。
①知る
②使ってみる
③使うべき場面がわかってくる
④定着する
新しい語彙は、この段階を経て身に付きます。
そこで、「モチベーション」を使った短文を作成させてみるのです。
少なくとも3文。
「嫌いな学習に取り組むモチベーションが上がらない」
「アイドルに憧れても現実になるはずがないのでモチベーションなどわかない」
「満点をとったことで勉強のモチベーションが上がってきた」
「ダイエットに成功したことでモチベーションが上がった」
「先生から褒められてモチベーションが高まった」
「入試の後のご褒美ハワイ旅行がモチベーションとなる」
「いくら頑張っても怒られてばかりだとモチベーションが保てない」
このようにすることで、どうやら「モチベーション」という語句が、上がる・下がる・高まる・低くなるなどといった語句と相性が良いことがわかってきます。こうして「モチベーション」を使うべき場面が身についてくるのです。
(あくまでも例としてあげました。モチベーションという語句を使いこなせることは中学入試にはさほど役立ちません)
もう一つ、「はかない」という語句を例としてみましょう。
生徒:先生、「はかなげな眼差し」ってどういう意味?
私:「はかない」って辞書でしらべてごらん。
生徒:へえ、漢字は「儚い」って書くんだね。おもしろいね。人が見る夢みたいってことかな?
私:辞書にはどんな意味だと書いてあった?
生徒:確かなところがなく淡く消えやすい様子だって。やっぱり夢っぽい。
私:よし、それでは「はかない」を使った短文作成!
生徒:貯金などはかないものだ。
私:おもしろいけどそういう使い方はしないな。
生徒:僕の成績ははかない。
私:ううむ。いい得て妙のような気もするが、これもちょっと違う。もともと『はかない』は、『はか』が『無し』ということで、『はか』は量る・計る・測ると同じだ。つまり、きちんと測定すべき量が無い、頼りどころがない、むなしい、というマイナスイメージの表現になったんだね。
生徒:先生、もしかして『はかどる』の『はか』も測るって意味?
私:まあだいたい同じと思っていいだろう。「はかどる」の「はか」は、仕事の進捗状況や米の終了を意味したようだからな。「はかが行く」なんて表現もあった。つまり、ここでいう『はか』は目に見えるような仕事の進捗度合い、量をしめすんだね。
生徒:人生ははかない
私:小学生がいうセリフではないが、例文としてはとても良いね!
生徒:はかない愛
私:君は本当に小学生か?
こうしてやり取りをしている間に、どうやら「はかない」という語句は、人生・命・愛のような、もともと量を測定できないようなものと相性が良いことがわかってきます。そうすると「僕の貯金ははかない」「成績ははかない」のような用法が不適切なことが見えてきますね。
生徒:先生、「あさはか」っていうのは?
私:いいところに気が付いたね。辞書には何て書いてある?
生徒:思慮の足りないさまだって。僕のこと?
私:自分で言ってしまったか。
生徒:じゃあ、量るほどの考えがないから、あさはかって言うんだね。
私:うむ。量が浅い→思慮が足りない、となったという考え方もある。量というより、むしろ空間的な浅さを意味していたようだね。源氏物語には、「あさはかなるひさしの軒」なんて表現があるからな。
生徒:そうか。言葉の成り立ちを決めつけるのはあさはかだってことだね。
私:うまい!
3.発展編・・・2単語以上を指定した短文作成
短文作成法の発展編として、2単語以上を使った短文作成をやってみましょう。
最初のうちは、対になる語句がやりやすいと思います。
「学校で勉強するのは僕たちの権利だけど、先生には教える義務がある」
「土用の丑の日には鰻の需要が増えるが供給が間に合わない」
「葬式には華美な服装ではなく質素な服装がのぞましい」
「はじめての海外旅行では、軽率な行動は慎んで慎重に行動すべきだ」
「勝ったサッカーチームは歓喜の声をあげていたが、シュートを止められなかったゴールキーパーの表情は悲哀に満ちていた」
また、相互に関連の無い熟語を使った短文作成というのも効果的です。
◆安否・示唆・形相
「彼の恐ろしい形相は、子どもの安否がわからぬ現実を示唆していた」
複数の生徒を指導しているときに、一人ずつ順に1つずつ語句を入れた短文を作らせ、全体でストーリーとなるようにする、そんな遊びを取り入れたことがあります。実は子どもたちの発想力は意外に貧困で、大して面白いストーリができなかったので1度でやめました。
この短文作成法のコツは1つです。
出来上がった文にきちんとダメ出しをすること。
国語能力の向上が目的ですので、適当におまけをしてはいけないのですね。