前回の記事で、地理を得意にする方法をご紹介しました。
となると、歴史についてもお話しなくてはならないですね。
1.歴史を学ぶ前提
前回の記事でこう書きました。
社会科が苦手な生徒の親も社会科が苦手である。
私が長年の経験から導き出したルールです。
もしお子さんが歴史が不得意ならば、まずは親が自分の胸に手を当てて思い出す必要があります。
はたして自分は子どものころ歴史が好きだっただろうか?
YES という方は、安心です。
みなさんの歴史好きの思いを、ぜひお子さんにお伝えください。
一緒に歴史を学んでください。
いずれお子さんも「歴史好き」なってくることでしょう。
しかし、「歴史好き」=「歴史が得意」ではないことには注意が必要です。
もし NO という方は、これからの記事をよく読み、実践できそうなところからチャレンジしてみましょう。
2.歴史好き≠歴史が得意
どうも歴史の学習には、こうした誤解が広がっているように思います。
「歴史が好きになれば、いずれ得意になり得点できるようになるはずだ」
そこで、お子さんが歴史を好きになってくれるように、あれこれ考えます。
〇歴史漫画を与える
〇歴史小説を読ませる
〇歴史を題材としたゲームを与える
〇歴史大河ドラマを見せる
〇テレビの歴史ドキュメンタリーを見せる
残念なことに、全て間違っています。
これらは、エンタメとしてはよいでしょう。暇な時間の楽しみとしては否定しません。しかし、これらを実践したとしても、歴史が好きになったような気がするだけで、得点にはつながりません。
しかも、「正しい歴史知識」が扱われているとは限らないのが厄介です。
ここで「正しい歴史知識」と言っているのは、「中学入試に出るレベルの歴史知識」という意味です。学問的に定説となったものであっても、学校教科書に載るようにならないと、入試に向けて教えるわけにはいかないですから。
特に、ドラマや小説、ドキュメンタリーは要注意です。「定説を覆す新事実」「従来の人物像を書き換える新解釈」といったものを取り入れていることが多すぎます。
ちなみに、私は歴史が大好きです。しかし、歴史小説も読みませんし、大河ドラマや歴史ドキュメンタリーーも一切見ないようにしています。
今私の頭の中には、「中学入試に向けて教えるべき正しい知識」のみが入っています。そこに歴史小説やドラマで扱われるような知識が入ると、頭の中で正しい知識とそうでない知識が混ざって区別がつかなくなってきます。そうしたことを生徒に教えるわけにはいきません。知識が濁ってしまうことが嫌なのです。
この仕事を引退してから、思う存分歴史小説を読んだりドラマを見たりするつもりです。
目指すべきなのは、「歴史を得意にする」ことですので、そのための方法論を書いていくことにします。
3.歴史を得意にする5つのテクニック
(1)時代背景を理解する
(2)年代を暗記する
(3)人物名を暗記する
(4)得意な時代を1つつくる
(5)視点を変える
これから5つのテクニックについて書いていきます。どれかお子さんに合いそうなやり方があるとよいですね。
(1)時代背景を理解する
最も理想的に見えて、最も難しいやり方がこれです。
とくに歴史が好きで得意だった経験をお持ちの大人(親)が考えがちなやり方です。
「年代だの事件だの、今の中学入試は細かい知識を暗記させてばかりだな。これでは歴史が嫌いで出来なくなって当たり前だ。自分の学生時代は、そんな細かいことを暗記しなくてもテストできちんと得点できたぞ」
こうしてわが子の歴史の学習に関わりはじめるのですね。
関わるのは大切です。むしろ積極的に関わらなくてはなりません。ただし、その方法論を、お子さんにフィットしたものにしなくてはならないのです。
「知識をいくら暗記しても、それが正しい歴史背景の理解につながっていなければ何の意味もない!」
正論です。
ただし、小学生にとって歴史背景を正しく理解することは困難(=無理)なのです。
例をあげて説明します。
平安から鎌倉にかけて、仏教が大きく発展しました。いわゆる「鎌倉新仏教」ですね。
これらの名称と、開祖は入試必須の知識です。
しかし、それらを暗記しただけではつまらないですね。
なぜこの時期にこんなにたくさんの仏教が花開いたのか、そこを理解させたくなります。
そこで、教えたいのが「末法思想」と「無常観」の2つです。
社会の死後2000年を過ぎると、仏法が守られない「末法」の世が訪れると当時考えられていました。11世紀半ばから「末法」の世になるとされていたのです。そのころは、武士の力が強まり、地方政治が乱れていく、名ばかりの「平安時代」なわけですね。人々の気持ちも不安になることは容易に想像つきます。
しかし、当時権勢を誇った仏教は、天台宗・真言宗の密教です。現世利益につながるこの仏教は人々の不安に応えるものではありませんでした。
また、当時の世相を反映するものとして、「無常観」があげられます。
平家物語の冒頭はこうでしたね。
「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。奢れる人も久からず、ただ春の夜の夢のごとし。猛き者も遂にはほろびぬ、偏ひとへに風の前の塵におなじ。」
「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。淀みに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。世の中にある人とすみかと、またかくのごとし。 」
いいですねえ。無常観に満ち満ちていますね。
鎌倉時代という時代と仏教を本当に理解するためには、こうしたことをきちんと理解する必要があるのです。
そこで、私の講義では黒板に方丈記・平家物語の冒頭を書き、無常観や現世利益から来世利益、極楽往生を願う人々の気持ちについて語ります。
断言できます。
小学生にも中学生にも全く理解してもらえません。
30年間チャレンジし続けていますが、いまだに不可能です。
小中学生には、これらを理解することができないのです。
これは高校生にならないと無理でしょう。日本の学校教育では宗教に関する教育は非常に薄っぺらいので、もしかして高校生でも難しいのかもしれません。
ここはあきらめて、鎌倉仏教を丸暗記させることで乗り切る他はないのです。
歴史背景を理解させるやり方は、
◆教師(親?)が正しい歴史勘を持っている
◆独りよがりの説明にならない
◆小学生にも理解できるように説明できる
◆難しい用語は使わない
◆豊富なたとえ話を駆使できる
◆理解したことで知識が頭に入りやすい実感を与える
以上の6点が必須です。
もしそうした理解のさせ方ができれば、とても良い方法論へとなるでしょう。
(2)年代を暗記する
これを提案すると、大人はみな嫌な顔をします。しかし不思議なことに、子どもたちは嫌な顔をしません。
子どもの柔軟な頭なら、丸暗記が簡単にできます。
そこで、正しい暗記のやり方をレクチャーし、そのやり方で1週間やらせてみます。すると、どんなに暗記が苦手(だと思い込んでいた)生徒でも、100個程度の歴史年代なら完璧に丸暗記できるのですね。
こうして「自分にも暗記ができた!」という成功体験は子どもたちを前向きにします。
一旦こうして歴史年代が100個~150個完璧に覚えられると、それが歴史を学ぶときの重要な物差しとなるのです。
考えてもみてください。
歴史の勉強をするとき、歴史のテストを受けるときに、壁に150個の歴史年代と出来事が一覧表で貼ってあったらどうでしょう? ずいぶん勉強が理解しやすく、テストも答えやすくなると思いませんか?
年代暗記は、こうして今後非常に役立つ、歴史の物差しを頭の中に作ることにあります。
四の五の言わずに、丸暗記する。
これが正解です。
暗記の具体的なやり方についてはこちらに詳述しています。ぜひお読みください。
(3)人物名を暗記する
文部科学省の学習指導要領には、とりあげる歴史人物として42名の人物があげられています。
卑弥呼
聖徳太子
小野妹子
中大兄皇子
中臣鎌足
聖武天皇
行基
鑑真
藤原道長
紫式部
清少納言
平清盛
源義経
北条時宗
足利義満
足利義政
雪舟
ザビエル
織田信長
豊臣秀吉
徳川家康
徳川家光
近松門左衛門
歌川広重
本居頼長
杉田玄白
伊能忠敬
ペリー
勝海舟
西郷隆盛
大久保利通
木戸孝允
明治天皇
福沢諭吉
大隈重信
板垣退助
伊藤博文
東郷平八郎
小村寿太郎
野口英世
足りない。足りなすぎます。
最低でもあと200名は必要ですね。
ちなみに中学校の教科書の索引に出てくる人物名は300人を超えます。
世界史の人物名も少しだけ出てくるのですが、中学校の教科書レベルが中学受験の基礎知識レベルという法則を適用すると、合計で300名くらいは覚悟する必要があります。
こう書くと、「そんなに大勢!」と眩暈がするかもしれませんが、歴史人物を覚えるというのは、歴史ドラマを知ることとイコールの関係にあります。
たとえば織田信長を知っていても明智光秀が出てこないと本能寺の変が説明できません。源頼朝と実朝、それに北条正子が出てこないと鎌倉時代が始まりませんね。
ここでは、重要な出来事ごとに歴史人物のチームを作りましょう。
江戸時代の文化に関わる人物もひとまとめにしましょう。
そして、それぞれの人物が「いつ・どこで・何をしたのか」を整理するのです。
本当は「なぜ・どうして」を加えると理解が深まるのですが、そこは割愛します。歴史解釈が関わるので定説がない部分だからです。
(4)得意な時代を1つつくる
「この時代はおもしろい!」
「この時代なら詳しいぞ!」
と思える時代を1つ作りましょう。
お薦めは江戸時代です。
江戸時代は事件が多くありませんので、整理がしやすいのですね。
将軍の一覧表に、出来事や文化等を整理するとよいでしょう。
私の授業では、江戸時代の庶民の暮らしぶりがわかるように心がけています。
墨堤の花見、大山街道を行く神社詣で、品川宿の賑わい、上野のホタル観賞、いくらでも語りたいことがあります。
現在の私たちの文化の源流の多くは江戸時代にあります。
ここはぜひ好きになってほしい時代です。
そして江戸時代をベースとして、その前後に学習をすすめるのです。
室町幕府と鎌倉幕府は、江戸幕府との違いをベースにすすめます。
明治時代は、江戸からどのように変化したのかを基本に考えます。
(5)視点を変える
これは最高難度のアプローチです。
世界史の中のアジア史、そうした観点で日本史をとらえなおすのです。
このやり方は、中学生になって世界史を学び始めたときに花開きます。
最近の入試傾向にもマッチしています。
例えば、「種子島に鉄砲伝来」と覚えるのではなく、当時のアジアの交易がどのように行われていたのかを理解させましょう。
ヨーロッパからインド、さらにその東へと広がる交易網の一番はじっこに日本が位置していたのですね。
こうした理解を背景とした日本史の学習は、足腰の強い歴史勘を作ることに役立ちますね。