中学受験のプロ peterの日記

中学受験について、プロの視点であれこれ語ります。

小学校低学年にお勧め! 中学受験に向けて地理を得意にする第一歩

小4の男の子をお持ちの知人から相談されました。

社会科がさっぱりできないそうです。

「この夏休みに何とかしたい。どうしたらいいですか?」

断ろうと思いました。

以前同様の相談を受けて懲りた経験があるからです。

peter-lws.hateblo.jp

しかし、結局引き受けることにしました。

今回はそのご報告です。

親にどこまでの覚悟があるのか?

「社会科が不得意な子どもの親は、社会科が不得意である」

これは、私が経験から導き出した法則です。

今まで外れたことはありません。

小学生の社会科の学習は、地理→歴史→公民 と進みます。

 

「うちの子は地理がさっぱり覚えられなくて」

「お母さまも地理は嫌いではありませんでしたか?」

「どうしてわかるのですか?」

 

「うちの子は歴史に興味がないらしいのです」

「お母さまに質問です。江戸時代の将軍を何人覚えてますか?」

「ちょっと先生、いきなりですか? ええと、家康と、綱吉と、あと家なんとか。皆同じような名前で覚えにくいですよね」

 

「公民に入ってからとたんに成績が落ちてしまって」

「先日の選挙に行きましたか?」

「ああ。忙しくて、つい行きそびれました」

 

子は親を映す鏡だなあ、といつも思います。

子どもの社会科嫌い・地理嫌いの原因は、実は親にある。まずここを自覚しましょう。

 

さてそこで質問です。

お子さんの社会科嫌いを何とかするために、親はどこまで協力する覚悟がありますか?

 

もし、「全部先生にお任せします」と言われたら、断るつもりです。

社会科学習の核心は、「まわりの社会に目を開かせる」ことにあるのです。

週何回か、1~2時間程度の講義では、それは不可能だからです。

 

このお母さまの場合は、このようにお話がすすみました。

「今お子さんが学んでいる社会科は、地理分野ですね。そして、実はお母さまも昔から地理は苦手だったのですね」

「ええ。どうも地名が覚えられなくて。行ったこともない所って、興味が持てませんよね」

「お子さんの地理嫌いを何とかできる方法はあるにはありますが、それにはお母さまの覚悟が必要となります」

「覚悟、ですか?」

「そうです。お子さんだけでなく、お母さまも一緒に勉強してほしいのです」

「一緒に私も勉強するって、横についているってことですか?」

「違います。一緒に同じ内容を勉強するのです。途中でテストもします。それも一緒に受けてもらいます。ここで講義をするときにも、一緒に机に座ってもらいます」

「つまり、私も生徒になるのですね」

「そうです。おそらくは、お子さんのほうが覚えるのも早く、点数も取れると思います。親の権威失墜ですね。時間もとられます。それでも一緒に勉強する、その覚悟がおありですか?」

「わかりました。お願いします」

 

こうして、親子での夏休みの地理学習が始まったのです。

 

現状把握と作戦立案

4年生の夏の時期ですと、地理の学習は産業までは進んでいないのが普通です。基本的な気候や地形、地図の見方程度を学んだ段階です。

まずは、簡単なテストを受けてもらいました。100点満点のテストで、子どもは20点台、お母さまは40点くらいとなりました。さすがに大人ですので、常識程度の知識はあったのです。まあ40点程度の常識ですが。

 

とにかく、基本的な地名が全く身についていないことが判明します。淀川・仁淀川・大淀川がごちゃまぜになっているレベルなのです。

作戦は2つあります。

効果的だが地理が嫌いになるやり方と、時間はかかるが地理が好きになるやり方です。

前者のやり方は、地理分野を網羅したプリントを用意して、徹底的に反復演習するやり方です。いわゆる丸暗記ですね。効率は良いのですが、実につまらない学習となります。

まだ4年生です。この段階では、後者のやり方、つまり時間がかかっても地理が嫌いにならないやり方をとることにしました。夏休みですからね。時間がたっぷりととれます。

 

旅行計画の立案

 その作戦とは、旅行計画を立てることでした。

北海道・東北・関東・中部・近畿・中国・四国・九州・沖縄

9種類の旅行計画を立ててもらうのです。

沖縄は九州のくくりにいれるのは無理がありますので、ここだけ単独旅行とします。

まずは二人で別々の旅行プランを立ててもらいました。

そのうえで、私の前でプレゼンしてもらいます。

私が良いと思ったほうを採用します。

そのうえで、もう一人に協力させて、より完成度の高いプランに仕上げてもらう。

 

プレゼンは、模造紙プレゼンとしました。古典的ですが、パワポなどよりはるかに学びにつながりますので。

プランを立案するにあたって使う資料は、二人で集めたものを共同で使ってもらいます。

〇旅行ガイドブック

〇旅行パンフレット

〇ネット検索

とくに、旅行パンフレットは有効です。旅行会社に行くと、たくさん棚に並んでいますからね。あまり1つの旅行会社から大量にもらってくるのもまずいので、いくつかの旅行会社を回ったそうです。お店の人にはきちんと事情を説明してもらってきました。

 

旅行プランの立案にあたっては、1つだけ注文をつけました。

観光名所をめぐるだけの旅はしたくない。その地域のことがより深く理解できるようなプランを立ててほしい。

 

旅行プランの内容

 

第一回目は、旅行プランを立てやすい北海道からはじめてもらいました。

しかし、二人の最初のプレゼンは、ただの観光ガイドブックのモデルプランの域を出たものではありません。北海道の歴史や、そこに住む人の息遣いが感じられるようなものではなかったのです。また、交通経路の調査も甘かったですし、費用の計算もできていませんでした。

そうした弱点を指摘し、今度は二人で協力して仕上げてもらいます。

最初の北海度の旅行プランの作成には時間がかかりました。

何度もダメ出しをしなくてはならなかったからです。

しかし、そのおかげで立案のコツがわかってきたらしく、2回目の東北旅行からは、当初の計画通りにすすむようになったのです。

 

正直いって、ものすごく時間がかかりました。

しかし、途中から親子で盛り上がるようになってきたのです。

食事の時間中にも、「あそこに行くべきだ」「いや、そこは遠いから」といった話が出てきます。ときには父親も参戦してにぎやかに話が盛り上がったそうです。

 

狙い通りです。

 

地理の学習は、地名を暗記することではありません。

様々な地域で、どのような生活が営まれているのか、それを想像することなのです。

そのためにはその地域に行くのが一番です。

しかし、全ての地域を網羅して行くことは不可能です。

そこで、せめてヴァーチャルトリップをしてほしかったのです。

 

こうして日本全国の地名が頭の中で有機的に結びつき、授業で新しい地名が出てきたときにも、「あ、そこ知ってる! 〇〇の少し上のほうの町だよね!」といえるようになったのでした。

 

親が本気になる

 

この学習法がうまくいくための最大のポイントです。

親が本気になることなのです。

このお母さまは、途中から自分も楽しくなってきたため、子どもをプレゼンで負かすために本気を出しました。

だからこそ、親子で夢中で取り組むことができたのです。

 

こうして日本全国に「行ったことがあるような気がする」状態になりました。

今後の学習で、そこに産業の知識が乗っかっていくのですから、地理が得意になるのは当たり前ですね。