驚きますよね。
「志望校を上げましょう」なんて言われたら。
喜んでいいのか? 大丈夫なのか?
今回は塾の個別面談で志望校を上げるように言われた場合について考えてみます。
開成をすすめられた
「お子さんならいけますよ。1日は開成を目指しませんか?」
塾の個別面談でそんなことを言われました。
開成なんて、わが子には縁遠い学校だとずっと思っていました。芝中か暁星に進学できれば、と思って塾に通っていたのです。
しかし、最近成績が上向いてはきたので、1日に思い切って駒東を受験するかどうか、ちょうど夫婦で話し合っていたところです。
まさか開成の名前が出るとは。
さて、こうした場合、なぜ塾の先生が開成をすすめたのか考えてみる必要があります。
開成に届きそうだと確信した
まずシンプルにこの場合です。親が思う以上に、順調に成績が上向いているのですね。このままいけば開成にも届くぞ! そう塾の職員室で話し合われたのでしょう。駒東ではもったいない。まして芝・暁星なんて。そこで開成を勧めてきたのですね。
ただし、気を付けるべき点があります。
どうしても我々は偏差値で学校を並べてしまいがちです。本当の学校の魅力は、偏差値順ではありません。その先生が、そのお子さんには駒東よりも開成が合っている、開成に行くべき生徒だ、と考えたのなら、その根拠をきちんと聞いてください。そこで偏差値の数値しかあげられないようでは問題ですね。
塾の実績を稼ぎたい
哀しいことに、これが現実です。
塾にとっては、芝・暁星の合格1名よりも、できれば駒東、欲を言えば開成の合格1名が欲しいのです。広告に出すとインパクトのある学校名が欲しいのです。
そこで、子ども本人の適性を考えずに、「とにかく少しでも上の偏差値レベルの学校を受けさせる」という判断に陥りやすいのです。
そうした塾は多数存在します。
根拠もなく、いきなり志望校を上げることをすすめてこられたら要注意ですね。
「〇〇中ではもったいない。△△中を受けるべきですよ」
「せっかく△△中に合格する力があるのですから。」
そんな提案に安易に乗ってはいけません。
実は出題傾向が合っている
お子さんの得点力をよくわかっていて、「彼なら〇〇中よりも△△中のほうが点がとれます。偏差値では上ですが、実際には△△中のほうが合格可能性が高いのです」と、各科目の詳細な分析とともに提案されるなら、話を聞く価値はあります。
実際に、そうしたケースはあるのです。
わかりやすい例でいうと、開成と麻布。偏差値では5ポイントくらい麻布のほうが開成よりも低くなっています。かといって、開成に合格できる子でも麻布には合格できないのです。偏差値では測れない問題との相性というものがあるのですね。麻布は思考力・記述力が重視される学校ですので、開成・筑駒に合格できる学力とは別の学力が必要となるのです。たとえ偏差値的には麻布かなあ、などと考えていたら、開成の方が合格可能性が高くなる、そんな場合もあり得ます。(もっとも、麻布は校風にほれ込んで受験する生徒が大半です。偏差値で選ぶ学校ではないですね。)
安全志向すぎるのも考え物
志望校のラインナップを見ると、妙に安全志向だなあと感じる場合があります。たとえばこのようなものです。
大学付属校ばかり並んでいる
〇Y偏差値64の男子のケース
2/1 中央大附属(Y57)・PM都市大付属(Y61)
2/2 立教池袋(Y51)・中央大附属横浜(Y59)
2/3 明大明治(Y61)
2/4 中央大附属(Y57)
ご相談のメモには、「明大明治は下げたほうがいいでしょうか?」とありました。
徹底的な安全志向&大学付属志向です。
ただし、都市大付属のように大学付属というより進学校の名前も挙がっていますし、中央大附属横浜のように距離的に通えるのか? という学校も書かれているところが気になります。また、同じくらいの偏差値の生徒が必ずあげるであろう早慶附属が一校も書かれていません。これは直接お話をうかがわないとわかりませんね。
さて、お話を聞いてみると、内情がつかめました。
とにかく、お母さまが心配性なのです。絶対に公立中学には行かせたくないので、とにかく合格しなくてはならない。しかも、大学入試で失敗させたくないので、大学付属を選んだ、ということでした。大学付属校を受験するということは、将来の選択肢を1本に絞ることとなります。中央大学・明治大学・立教大学に進んでほしいのかうかがうと、とくにそれらの大学にこだわりはないとのこと。
問題だったのは、本人にそのつもりはないことでした。大学付属校にして絶対に大学受験を回避したいなどと全く考えてはいないのです。進学校でもいいと思っていました。しかし、母親があまりにも大学付属にこだわるので、本人も「そんなもんかなあ」と母親のいいなりになりつつある様子です。ところでお父様は異なる考えをお持ちのようでした。男の子だし、多少の失敗は人生の肥やしになる、と昭和の価値観をお持ちです。とくに将来の大学の進路を今から固定化することには本当は反対でしたが、母親に押し切られたご様子です。
さらに、話をうかがっているうちにもう一つの理由に気が付きました。母親が、もう受験はこりごりだという気持ちが伝わってくるのです。必要以上に子どもに干渉し、必要以上に受験情報に振り回され、もうすっかり疲れてしまったのですね。「こんな思い二度としたくない」という気持ちと、「不合格なんて絶対に味わいたくない」という気持ちが前に出てしまったのです。
さあ、これは難題です。
もちろん、これらの学校もみなとても良い学校ですし、本当にここが志望校なら何もいうことはないのですが、偏差値表を眺めながら、確実に合格できそうな大学付属校を並べているだけなのがはっきりとしているのです。
私からは1つだけアドバイスをしました。
2月1日に、早稲田・早大学院・早稲田実業・慶應普通部、この4校のいずれかを検討してみましょう、と。
本当は、1日に安全校で合格を確保してから、そのあとチャレンジという流れのほうが説得しやすいのですが、残念ながら早慶附属の入試は1日に集中しているのです。慶應湘南藤沢は距離的に考えられませんし、慶應中等部は試験日が遅いことに加え学力以外の要素がやっかいですからね。
この生徒の実力がこのまま維持できれば、そしてきちんと志望校対策を行えれば、1日の合格は十分考えられるのです。
いちおう聞いてみました。
「大学に進学することを考えた場合、中大・明大・慶應・早大のどこに行かせたいのですか?」
できれば早慶だったら本当は嬉しい、と本音を引き出せました。
とにかく弱気すぎる
〇S偏差値53の女子のケース
サピックスの偏差値は、四谷大塚や日能研と乖離しているため、なかなかわかりづらいですね。偏差値53ときくと、真ん中のチョイ上あたり、と普通は考えますが、サピックス偏差値はそうともいえません。サピックスの偏差値表で53前後の学校をひろうと、こんな学校が並んでいます。
N偏差値でいうと58~63あたりの学校です。
しかし、この子の提出してきた志望校のリストはこうでした。
2/1 大妻(S44)・PM昭和女子大付属(S44)
2/2 共立女子(S41)・PM東京女学館(S45)
2/3 東京女学館(S45)・PM山脇(S45)
2/4 昭和女子大付属(S41)
ご自宅は渋谷駅から数駅ということでしたので、都内ならどこでも受験は可能です。
また、女子校、それも伝統校に行かせたいということでした。
それにしても、安全志向、というより弱気の受験です。このままでは1日で入試が終了します。
もちろんどの学校も素敵な学校ばかりです。別に1日の大妻で入試が終わっても何の問題もないと思います。
しかし、本音を聞き出すのもこちらの仕事の一部です。すると、両親ともに、本当は雙葉か白百合に進学させたいという希望が出てきました。しかし、どちらも無理だとあきらめたそうです。せめて学習院女子なら、と一度は考えたそうですが、不合格を恐れてしまったのですね。公立中の男子がいる環境には全くなじめない性格の子だとのことで、なんとしても私立中学に進学させたいそうです。ただ、将来の進路を今から狭めるのは嫌なので、大学付属校を避けたいとおっしゃっていました。
私のアドバイスは簡単です。
2/1 雙葉(S58)・PM山脇(算数S49/国語S54)
2/2 白百合(S53)・PM山脇(S49)
2/3 学習院女子(S53)・PM山脇(S45)
2/4 山脇(S43)or普連土(S41)
この生徒なら、十分雙葉を狙える力はあります。おそらく白百合は合格できるでしょう。そのうえで、万が一に備えて山脇の午後入試を受ける、という作戦です。
実は算数の成績も悪くなかったので、1日の午後の山脇算数単科入試で合格はとれるでしょう。しかも家から近いですし、都心のロケーションなのに校地は広大ですからね。山脇は短大の敷地と施設をそっくり中高が利用していますので、本当に余裕のある作りなのです。利用していない空室の理科実験室などが並んでいるくらいです。
2/4の山脇や普連土にまでもつれこむ可能性はほぼないのですが、とくに女子の場合は体調不良を考慮して、確実に合格がみこめる学校を日程をちらして複数用意しておくのが鉄則ですから。
一般的傾向として、両親の意見がずれているケースが多い
志望校を低めに考えている=安全志向が目立つご家庭の場合、ご両親の意見が一致していないケースが多いような気がします。あくまでも私の体感ですのでエビデンスはありませんが。
さらにいうと、男親は息子はチャレンジさせる方向に、娘は安全策をとる方向にベクトルが向いています。母親、息子は安全策をとらせる方向に行きがちですね。娘の場合はどうだろう? どっちもいたような気がします。
あくまでも主観です。
たしかに、公立中学へ進学してからの高校入試は大変です。
とくに女子は回避する方も多いですね。高校入試の門戸を開いている私立女子高校がほとんどなくなってきているからです。従来は高校募集をしていた私立中高一貫校が高校募集を次々と取りやめにしています。数少ない私立高校(大学付属校がほとんど)に受験生が集中するのでなかなか大変になるのです。
そう考えると、子どもが女子の場合は、安全策をとりたくなるのはわかります。
いずれにしても、両親の意見がそろうのが大前提です。そのうえで、その考えにお子さんも納得している。志望校を考える個別面談の前には、そこまでご家庭ですすめておいていただきたいと思います。
偏差値が高い学校が良いというわけではないが
もちろん、偏差値が学校の良さをあらわしているわけではありません。あくまでも入試難易度の目安にすぎません。
しかし、その学校を目指して努力した生徒たちの学力レベル・努力値を反映していることは確かです。
※一部学校では入試日を分散してそれぞれの募集定員が少なくなったため、偏差値が高目に出ている場合もあります。偏差値=学校のレベル、という単純な話にはなりません。
偏差値の2ポイント程度は無視できる誤差ですが、10以上も離れている場合は、そこに進学する生徒の学力を如実に反映します。
努力の価値を身をもって知っている同級生に囲まれる学校生活のほうが幸せだと思うのです。
また、子どもの自己肯定感というものも無視できません。
「自分はこんなレベルの高い学校に進学できた。周りをみれば、優秀な同級生がたくさんいる。自分はその一員なんだな。」
こんな気持ちで過ごす6年間は素敵ですね。