不景気(体感)・日本の国力低下・円安、そうしたニュースばかりの中、海外旅行の話題で恐縮ですが、怒らないでお読みください。
今回は、世界地理の学習に役立つ、ヨーロッパ鉄道旅行のすすめです。
中高生でヨーロッパに行く意義
子どもにとって旅行は「体験」です。非日常を味わうすばらしい体験ですね。親としてもそんなわが子の姿を見ることは喜びです。
しかし、安からぬ費用をかけて、しかも海外に行くとなると、やはり「学び」を意識しないわけにはいきません。
せっかくヨーロッパ旅行を企画するなら、ぜひ世界地理・世界史を学んでいる最中に行くことをお勧めします。奈良・京都への旅行が、日本史を学ぶのに役立ったように、世界史・世界地理の観点からのヨーロッパ旅行は、ただの観光旅行では得られぬ学びをもたらしてくれます。
鉄道をお勧めする理由
日本からヨーロッパに入るとすると、ロンドン・パリ・フランクフルト・ミュンヘン・アムステルダム・ローマ・ミラノ・マドリード・ヘルシンキ・チューリヒといったあたりでしょうか。ウクライナ情勢をうけて、航路がだいぶ変更されてきているので何ともいえませんが。もちろん、乗り継ぎをすればさらに選択肢は広がります。例えばカタール航空を使えば、ドーハ経由でヨーロッパ35都市に入れます。
仮に、JAL直行便を利用してフランクフルトからヨーロッパの旅をスタートさせるしましょう。そこから先の移動手段の選択肢は4つです。
レンタカー
自分の都合で移動できる手段としてはベストですね。遠く離れた拠点間を移動するのにはレンタカーしか選択肢がないかもしれません。
ただし問題もあります。
高速道路沿いの景色はつまらないのです。
運転担当と、ナビ担当の二人、たぶん父親と母親は忙しいので、子どもは後部座席で退屈します。移動こそ旅の醍醐味である、という今回のコンセプトからは外れる気がします。
長距離移動した後の駅からその周辺をめぐるときのみ、レンタカーは有効だと思います。
長距離バス
レンタカーよりはましです。多様な乗客とバスに乗るのも旅行気分が盛り上がりますね。ただし、景色はつまらないです。おすすめの手段ではありません。
飛行機
時間が無い場合はしかたがないですが、飛行機の旅は味気ないものです。まあ昼間のフライトなら窓から見下ろす風景と頭の地図をリンクさせるという楽しみもありますが、グーグルアースがありますからね。
鉄道
今回お勧めしたいのはこの移動手段です。
例えば、フランクフルトからアムステルダムまで鉄道で移動すると、所要時間は3時間50分です。
3時間50分といえば、ちょうど東京から広島へ新幹線で移動する時間と同じです。
もし日本に観光旅行に来た外国人がいて、広島までの移動手段を相談されたら、みなさんならどれをお薦めしますか?
レンタカーは非現実的でしょう。ノンストップでも10時間はかかります。不慣れな日本の道路でその運転時間はきつい。
高速バスなら14時間くらいです。料金は飛行機や新幹線の半分以下ですし、1泊の宿泊代が浮きます。お金節約型旅行としてはベストの選択ですが、車窓風景は楽しめません。夜ですので。
飛行機は1時間20分くらいでしょうか。ただし、羽田までの移動がありますね。さらに広島空港は広島市内から離れています。飛行機の待ち時間もあります。結局4時間以上はかかります。
それにひきかえ、新幹線は東京駅から広島駅の移動ですので、到着後の観光にもホテルへの移動にも便利です。時間は3時間50分です。
そしてなんといっても車窓風景。
小田原から熱海のあたりの海もきれいですし、富士山も見えます。牧之原の茶畑や、浜名湖、さらに大井川や木曽川等を渡ります。
京都では東寺の五重塔が見えますし、姫路城を仰ぎ見ることもできます。
どう考えても、お薦めするなら新幹線一択です。
同じように考えれば、ヨーロッパ旅行で鉄道をお薦めする理由がおわかりいただけるでしょう。
フランクフルト空港駅からフランクフルト中央駅までは、電車でわずか13分の距離です。表示もわかりやすいので、空港からすぐに中央駅に移動ができます。
フランクフルト中央駅からは、高速鉄道のICEに乗り換えましょう。
直行の高速列車の車内は快適です。
1等を選べば、ドイツ人の体形に合わせた座席は実に広々ゆったりとしています。人数にもよりますが、コンパートメントも選べます。日本ではあまりお目にかからないコンパートメントはさらに快適です。食堂車もありますし、そこの従業員に頼めば、座席までビールが届きます。
鉄道旅のメリットその1 途中下車の楽しみ
さて、フランクフルトを出発するといくつかの都市を通りますね。なんといっても見どころはケルンです。有名なケルン大聖堂は、ケルン駅に隣接していますので、車内の窓からその威容を仰ぎ見ることができます。できればケルンは途中下車すべきですね。ヨーロッパはどの町に行ってもカトリックの大聖堂が中心部にありますが、やはりケルンの大聖堂は別格です。
しかも、大聖堂前の広場の周辺には、ビアホールがいくつもありますので、本場のソーセージとともにいかがでしょうか? (子どもはどうする!)
こちらの写真は、ケルン大聖堂から徒歩30秒のところにあった、老舗のビアホールです。こちらでは、かごに入ったビールを持った店員が店内を巡回していて、グラスが空くとすぐに新しいビールが置かれます。まるでわんこそばです。
これは、そのビアホールで頼んでしまったソーセージ類の盛り合わせです。アイスバインとソーセージがお盆からはみ出さんばかりに盛られています。正直、この量はしんどい。これが運ばれてきたとき、隣のテーブルにいたアメリカ海兵隊4人組(海兵隊かどうかはわかりませんが、いかつい体格の軍人でした)が、「おい、その量を食べるんかい? がんばれ!」とエールを送ってくれました。これは、海外旅行あるあるですね。欧米でもアジアでも、1皿の量が明らかに日本より多いのです。たぶん日本、それも東京の料理の量が少なすぎるのだと思います。つい東京の感覚で注文するととんでもない大皿を前に呆然とするはめになります。とくにアメリカ・メインランドは要注意です。
ここドイツでも、ドイツ人の体格を考えるべきでした。
値段の高い一皿を頼むときには、量を確認したほうがいいですね。
ケルンを過ぎると、やがてデュッセルドルフにつきます。ここは、いわゆる商業都市ですね。12世紀からの歴史を誇る町ですが、残念なことに第二次世界大戦で徹底的ば爆撃を受けてしまいました。現在では経済の中心都市のひとつとして発達しています。日本企業も多く進出していますので、駐在する日本人も多いですね。日本人学校の生徒数もヨーロッパ最多だとききました。
もっとも、そのあとに建てられた建物も街並みに溶け込むように作られているようで、バランスの良い景観が保たれているところはさすがです。
ライン川沿いには、散歩道と、そこに面してレストランが連なっています。ライン川の観光船もありますので、ちょっと寄る価値はあると思います。
デュッセルドルフを出ると、2時間20分くらいでアムステルダム中央駅に到着します。
実にいいかんじの駅ですね。
この駅、見覚えがありませんか?
そうです、東京駅です。もちろん本家はこちらで、東京駅は模倣です。
鉄道旅のメリットその2 車窓風景
この鉄道の旅、車窓風景は見ていて飽きません。
古い町をいくつも通り過ぎますし、あとはひたすら小麦畑が広がっていたりもするのです。その農村風景も、日本とは全くことなります。また、風力発電用の風車も実によく見かけます。ヨーロッパが本気で再生可能エネルギーにシフトしたことが実感できますね。
鉄道旅のメリットその3 駅構内も楽しい
日本の鉄道旅もそうですが、駅には様々な店が集まっていて、必要な物を買うのにも便利ですし、お土産になりそうなものも買えますね。ヨーロッパも同じです。鉄道に乗る時刻より早めに駅にいってぶらぶらするのは楽しいものです。パリ北駅構内の書店では、一角を日本の漫画が占めていました。空港内の売店は、ほぼ観光客向けのものしかありませんので、あまり楽しめません。買うものが決まっている場合はいいのですが、一期一会のような意外な出会いは期待できませんね。しかし、駅の場合は利用客の大半は地元の人たちです。町で普通に売られているようなものが買えるのが楽しみです。
また、サンドイッチなどを買い込むのもいいですね。列車の車内で食べるのはもちろん、現地のホテルで食べる夜食を買うのにも便利です。ドイツの駅で私がいつも買うのはこれです。
カリーブルスト、つまりカレーソーセージです。
ゆでたソーセージをぶつ切りにして、そこにカレーソースをたっぷりとかけてからカレー粉をふりかけます。これにパンが1個つくのが定番です。パンのかわりにフライドポテトの場合もあります。
個人的にはパンのほうが合うと思います。
ベルリンが発祥らしいのですが、ドイツならどの駅にも店をみかけますね。
これだけでは1回の食事として物足りない(小食な人はちょうどいい)ですが、小腹を満たすのに最適です。
ただし注意点があります。写真を見ればわかるとおり、容器が持ちにくいのです。油断するとすぐこぼします。服につくと最悪です。左手に皿を持って右手でフォーク、となるとそれだけで両手がふさがりますので、スーツケースを持っているときには気を付けましょう。
街のスーパーをのぞくと、このカリーブルスト用の「カレーケチャップ」が何種類も売られています。これさえあれえば、日本でも再現できます。自分用のお土産にお勧めです。
鉄道旅のメリットその4 距離感がつかめる
飛行機の弱点は、一息に国をまたいでしまうために、距離感がつかみにくいことがあげられます。しかし、鉄道の旅は、日ごろ乗り慣れている急行列車や新幹線等を比較することで、なにより車窓風景からつかめるスピード感を体感することで、町と町との距離感、国の広さ、そうしたものが実感できるのです。
フランクフルト―アムステルダム間の距離が、実は東京ー広島と同じくらいだなんて、実際に鉄道で移動してみないとなかなか実感できないですよね。
ヨーロッパの国同士がこんなに隣接しているのか。その感覚は、ヨーロッパの侵略の歴史を理解するのにも、EU成立の背景を理解するのにも欠かせないものなのです。
鉄道旅のメリットその5 簡単に国境を越えられる
EUのありがたみが実感できます。
列車に乗ってぼんやりしているだけで、ドイツ→オランダ→ベルギー→フランスといった具合に国境を越えらえるのですね。
もちろん車での移動も同じですが、飛行機だと面倒くさいですね。そのハードルが低いのが鉄道旅の醍醐味だと思います。
もともとシェンゲン協定に入っていなかったイギリスは、EUといえどもその恩恵にあずかってはいませんでした。その後EUから離脱した理由もなんとなくわかるというものです。
鉄道旅行のメリットその6 イギリスへの入国が楽
今はだいぶましになったと聞きました。コロナ以前は、イギリスの玄関口、ヒースロー空港の入国審査がひどかったのです。
どんなに長蛇の列ができていようとおかまいなし、ゲートはいくつもあり、係員はだべっているのにゲートをあけてくれません。ひどいときには、2時間以上並んで、やっと自分の番が来たと思ったら、係員がどこかに行ってしまい、ゲートが閉じられるということがありました。そこで他のゲートの行列の一番後ろに並びなおしたのです。さっき消えた係員はどこに行った?と目で探すと、近くで同僚と話をしているだけでした。もし人の思念がエネルギーを持つのなら、あの係員は行列に並んでいた全員からのエネルギー放射で黒焦げ間違いなしです。
そこで、イギリスに行く際には、できるだけ直行を避けるようにしています。一度パリに行ってから、パリからユーロスターでロンドンに入るのがお勧めです。
パリのユーロスター乗り場の前に、フランスからの出国ゲートがあります。そこを通り抜けると、数十メートル先に、今度はイギリスの入国ゲート(の出張所のようなもの)があり、列車に乗る前にイギリスに入国したことになるのです。これはいい。全く並ばなくてすみます。
ユーロスターの車内も快適なのですが、トンネルが多いので、景色は楽しめません。しかし、入国審査の時間節約の他にも、空港での待ち時間がなくてすむのと、空港から市内への移動も省略できるので、結果としてトータルの時間はだいぶ短くて済むとおもいます。パリからロンドンまで2.5時間ですからね。まさに東京から大阪に行くくらいです。距離的にも475㎞ですので、ちょうど同じくらいでしょうか。
ロンドンとパリときくと、まったく異なる国の都市ですから、さぞかし離れているかと思うと、実は東京と大阪くらいしか離れていない、そんなことを実感できますね。
英仏の戦争の歴史を学ぶときにも、こうした実感をともなった知識は役に立つのです。