中学受験のプロ peterの日記

中学受験について、プロの視点であれこれ語ります。

【中学受験】早くから塾に通わせて頑張らせすぎると燃え尽きるという迷信

よくご相談されます。

「あんまり早くからの塾通いでは、やがて燃え尽きてしまうと聞くのですが。」

「うちの子は早くから勉強を強制しすぎたせいで、最近燃え尽きてしまったみたい。」

いわゆる「燃え尽き症候群」というものでしょうか。

少し考察してみたいと思います。

1.燃え尽き症候群とは?

いくつかの医療機関のHPをのぞいてみました。

燃え尽き症候群は①責任を背負いすぎたり、頑張りすぎたりする性質、②バーンアウトしやすい環境(理不尽な上司・解決できない悩み事)③がむしゃらに頑張ることが主軸になる適応方法の3つが重なるため起こります。(ベスリTMS横浜醫院)

燃え尽き症候群バーンアウト症候群)とは、それまでモチベーションを高く保っていた人が、突然やる気を失ってしまう症状です。努力に見合った結果が出なかった場合や、逆に大きな目標を達成したことで打ち込めるものがなくなり、何もやる気が起きなくなってしまう場合もあります。医学的には、うつ病の一種とされています。(かせ心のクリニック)

これはただ事ではありません。

うつ病の一種だそうです。

さらに、ここにわかりやすく解説がありました。

 

燃え尽き症候群は、数年前までは医学用語としては使われておらず、いわば概念として使用されている言葉でした。

それが約30年ぶりに改定された国際疾病分類(ICD-11)の中で、燃え尽き症候群の定義が初めて記載されました。

ICDとは、病院やクリニックで広く使用されている手引書で、病気に対しての診断を世界で統一するために作成されているものです。

ICD-11の中では、燃え尽き症候群の定義を以下のように定めています。

エネルギーの枯渇、または疲労感がある
仕事から離れたい気持ちが増加する。また仕事に対して否定的・冷笑的な感情が生まれる
効率的に仕事を進めることが難しくなる。また仕事に対しての達成感がなくなる
ICD-11では、燃え尽き症候群は適切に管理されていない慢性的な職場ストレスにより、健康状態に影響が出ることと考えられています。

診断をもとに病名を付けるのであれば、ご本人の状態によって「うつ病」「適応障害」などが選択肢にあがるでしょう。

また、ICD-11では、燃え尽き症候群による心身の不調はあくまで職場ストレスの影響であり、「雇用や失業に関連する問題」による不調の1つに分類されています。

病名というわけではなく、原因からみた病像になります。

www.tokyo-yokohama-tms-cl.jp

さらに、どんな症状があるのか調べてみます。

やる気が起きない

朝起きられない

お酒の量が増える

人との関わりを避ける

会社に行きたくない

問題が起こると自分の責任に感じ、力不足に落胆してしまう

なにか言われると責められている感じがする

休んでいるとやっていないことを不安を感じて休めない

笑顔をつくるのが億劫になってきた

疲れ切って休んでも意欲が戻らない

いつまでも成し遂げられない感じがして、自分が劣っているように感じる

以前のようにだれかを思いやり、心を配ることが難しくなっている

なるほど。受験生に当てはまる項目が多いですね。

これではまるで、受験勉強をする生徒のほとんどが燃え尽き症候群になってしまいそうです。

ただし、これらの情報のほとんどは、成人を対象とした記事でした。かろうじて大学受験によるケースが紹介されていたくらいで、中学受験生に関する検証はなされていないのかな、という印象です。たまに「中学受験で気を付けるべきは燃え尽き症候群」なんて記事もあるのですが、それらは受験産業(つまり医療の素人)が「燃え尽き症候群」という語句を勝手に使っているだけのように見受けられました。

どうやら、燃え尽き症候群に関する小学生を対象とした調査・研究はまだまだ始まったばかりなのではないでしょうか。

 

2.本当に中学受験勉強によって燃え尽き症候群になるのか?

 正直いって、私にもわかりません。

過去多くの受験生の指導をしてきました。数えたことはありませんが、1000人ということはありません。5000人は超えていないはずです。その間の人数です。

しかし、その私の狭い範囲の経験を振り返っても、燃え尽き症候群になった生徒というものが思い当たりません。

もしかして中学受験後、中学生になってから燃え尽きたのかもしれませんが、「毎日遊んでいて勉強してくれない!」という親からの悲鳴&ご相談はよく聞くのですが、心療内科レベルのお話というのは聞いたことがないのです。

ただし、これは私の耳に届いていないだけで、実際には悩まれているご家族がいた可能性もあります。中高一貫私立では、一定割合、不登校ぎみの生徒がいるとも聞いています。起立性障害という話はよく出ますが、それ以外にも、燃え尽き症候群になっていた生徒がいるのかもしれません。

 ただし、注意しなくてはいけない点があります。

中学受験というものは、世間的には「悪者」にされやすいのです。

東京都心部では受験率が半分を超える地域も珍しくありませんが、東京全体でみれば受験率は半分に届きません。まして首都圏全域にまで広げれば受験者は少数派です。

もちろん、全国を考えれば、公立小学校→公立中学校→県立高校→・・・ というのは普通のルートであり、それ以外の選択肢というものはほぼありません。

そうしたご家庭から見れば、中学受験というのは「異常」な世界に見えることでしょう。また、マスコミもいけませんね。おもしろおかしく、中学受験の「闇」を強調しすぎです。もちろんそうしたほうが「売れる」「視聴率につながる」からです。

その結果、「小学生時代に受験勉強を強要されたため燃え尽き症候群となった可哀そうな子ども」というステロタイプが生まれるのです。

たしかに、小学生にとっては過剰な量・質の勉強を行わせます。親としても、「可哀そうに、勉強やらせすぎだ!」という指摘にはどうしても反論しにくいのですね。

世の中の風潮として、反論してこない相手は攻撃の対象となる、というものがあります。かくして、「中学受験勉強をさせると燃え尽きる」という話が強化されていくのです。

 

なぜか、スポーツではこうした話はあまり出てこないですよね。

子どもをプロのサッカー選手(野球選手・テニス選手等)にしたくて、前のめりでサッカーをやらせているご家庭、かなり多いですね。

勉強そっちのけで、ひたすらサッカーに打ち込んでいます。父親(もとサッカー部?)が幼いわが子を公園で怒鳴りつけている姿などを見かけることもあります。

しかし、プロになれるのはほんの一握りの世界でしょう。そちらのほうが「燃え尽き症候群」になりそうだと思います。

 

3.燃え尽きる前に注意すべきこと

私自身は、子供たちはそう簡単に「燃え尽きる」ことはないと思っています。まだまだ「燃え尽きる」レベルの学習に達していないからです。

とはいえ、「燃え尽き」を疑われるような症状とならないためにも、また元気よく中学校に通うためにも、いくつか心掛けておくとよいことはお話できます。

 (1)子どもに責任をとらせない

 例えば、授業中の小テストで間違えた生徒がいたとします。それに対して、このような対応を、我々教師はしません。

「なぜそんな簡単な問題を間違えたんだ? 集中力なさすぎだ! もっと真剣に解きなさい! そんなことでは目標の〇〇中学には届かなくなるぞ。」

ああ、文字にしていても酷いですね。

我々はこう考えるのです。

(あっ、この問題間違えてるな。そうか、まだ定着していなかったのか。テストの前にもう一度授業で教えておけばよかったな。)

「この問題は簡単なんだけど、意外と間違える生徒が多いんだよな。見直しのコツを教えてあげるから、よく聞くように。」

 

生徒が間違えるのは、もちろんそのこと自体は生徒に直接の責任はあるわけですが、間違えないようなやり方をきちんと指導してこなかった我々に責任があるのです。

どうかご家庭でも同様に考えてほしいと思います。

「そんなやる気のない勉強では、〇〇中学なんて無理よ。〇〇中学に行きたいっていったのはあなたでしょ? だったら、どうして頑張らないの?」

まさかこんな声掛けはしていないですよね。

これは完全に逆効果です。

中学受験を志したのも、〇〇中学に目標を設定したのも、日頃の学習環境を整えたのも、全て周囲の大人たちです。したがって全責任は大人たちにあります。

 

※たまに、子どもが自分から塾通い&中学受験をしたいと言い出したという話を聞きます。

それは違います。

そのように子どもが言いだすに至ったのには原因があるはずです。その原因はおそらくご家庭の親にあると思います。

例えば、家にピアノ無いご家庭の子どもが、いきなり「僕は将来ピアニストになる!だからピアノ教室に通いたい!」とはなりませんよね。

家にグランドピアノがすでにあり、両親のどちらか(両方)が日常的にピアノを弾き、子どもにも3歳ごろから音楽教室に通わせていた。そうした環境の上で、「ピアニストになりたい。」と言い出すものだと思います。

子どもたちは、意外と親の会話を聞いています。親の顔色も読んでいます。子どもをどちらかの方向に仕向けるのは周囲の大人の影響です。

 

 (2)今やっている勉強の意味を理解させる

明日の小テスト、来月の模試、再来年の中学入試。そこで高得点をとるため(だけ)に今勉強する。

これでは目標設定が卑近すぎて、テスト終了後に簡単に目標を見失ってしまいます。

①将来どのような大人になりたいのか

②将来どのように社会と関わりたいのか=職業

③それを実現するためには大学でどのような学びをしていくのか

④そうした大学へ進学するためには、どのような中高生活を送るべきなのか

⑤人間形成に最重要な中高6年間を、どのような環境で過ごしたいのか

⑥その目標に向けて、今どのような学習をすべきなのか

 

ここまで考えて、それで今の学習に取り組むのです。

もちろん、将来の大人の理想像など小学生のうちに思い描けるはずもありません。だから、そこは漠然としたものでいいのです。それでも、そういうビジョンがあるのと無いのとでは大違いです。味もわからず、どんな栄養があるのかもわからず、なぜ食べなくてはならないのかの理由もわからず、目の前に皿を置いて「食べろ!」では、それは食べるのが嫌になるに決まっています。

 

①世界で活躍できる人になりたい・・・漠然とした憧れ

国際連合で働いてみたい・・・目標

③外国語や環境問題について大学で学びたい

④大学進学のための勉強と、第二外国語も早くからはじめてみよう

⑤高い目標を持った仲間や、海外事情に詳しい帰国生が多くいる中高で学びたい

⑥だから算国理社をこのレベルまで学ぶ

 

具体的な例としてはこのようなかんじでしょうか。

くれぐれも、⑥だけにこだわらないようにしましょう。